世界初、長基線ニュートリノビームの観測に成功

Announced on Monday, June 28, 1999, 14:00 Japan Standard Time
(in USA,= 7 pm Sunday 6/27 Hawaii Standard Time, 10 pm Sunday 6/27 PDT, 1 am Monday 6/28 EDT)

/日本語/英語/

スーパーカミオカンデで観測されたK2Kニュートリノ反応

各光電子増倍管の色がチェレンコフ光を観測した時間を、大きさが光量を 表す。+印がニュートリノ相互作用の起きた位置を、ダイヤ印がそこから 見たニュートリノビームの方向を示す。 右上にアンチカウンターの情報を示す。ここに信号がないことが ニュートリノ反応が観測装置内部で起こったことを示唆する。

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1999年6月19日(土)午後6時42分(日本標準時間)に、K2K (KEK-神岡間)長基線ニュートリノ振動実験は、スーパーカミオカンデに おいて最初のニュートリノ事象を観測した。これは、昨年6月にスーパー カミオカンデ実験が報告したニュートリノ振動の結果の検証に向けての第一歩 である。 また、これは、人工的に発生した素粒子を地中250km飛行させて観測した、 最初の実例である。この事象は、水の中で起きたニュートリノ事象と一致する 特徴を有する。事象の発生時間も、期待される時間から1マイクロ秒 (100万分の1秒)以内である。この事象の方向と時間は、実験の検出 精度から期待される範囲内にある。この事象が大気ニュートリノの反応 によるものである確率は、1万分の1と推定される。

KEKは、茨城県つくば市の文部省高エネルギー加速器研究機構の 略称である。スーパーカミオカンデは東京大学宇宙線研究所の5万トン 水チェレンコフ検出器であり、KEKからほぼ西に250km離れた岐阜県 神岡町に設置されている。

スーパーカミオカンデ共同実験グループは、1998年6月に、スーパー カミオカンデ検出器で測定した大気ニュートリノのデータを用いて、ニュートリノ 振動(ミューニュートリノからタウニュートリノへの振動)の強い証拠を見出し、 報告した。この重大な発見は、素粒子物理学、宇宙論、及び天体物理学に対し、 多大な影響を与えるものである。ニュートリノ振動現象は、ニュートリノが 0でない有限な質量を持つことを要求するものであり、素粒子についての 我々の描像を改めることを迫る。その結果、現在認められている素粒子理論である 標準模型は改訂されなければならない。なぜなら、標準模型ではニュートリノ の質量は0と仮定されているからである。また、この発見は、大統一理論を、 よりもっともらしく、かつ魅力的なものとする。さらに、この発見は、 宇宙が現在仮定されているより重いことを意味する。

スーパーカミオカンデ実験によるこの発見を、加速器によって発生した ニュートリノビームを用いて確認するため、我々はK2K実験を提案した。 この実験は、KEK所内に建設されたニュートリノビームラインと一群の 前置検出器、及び遠方の検出器として、250km離れた神岡にある スーパーカミオカンデを用いる。

K2K実験では、KEKの陽子シンクロトロンを用いて発生した ニュートリノビームは、前置検出器と遠方検出器を真っ直ぐ結ぶ線に沿って 発射される。従って、これらの検出器で記録されたニュートリノ事象を 比較することにより、ニュートリノ振動現象を調べることができる。 例えば、もしミューニュートリノがKEKから神岡に至るまでに タウニュートリノに振動する場合、スーパーカミオカンデによって検出される ミューニュートリノの数は、振動が起きない場合に予測される数に比べて、 かなり減少する。これは、ミューニュートリノが消失したように見えるで あろう。

K2K実験の一群の前置検出器は、精巧な素粒子検出器の組合せであり、 1000トンの水チェレンコフ検出器(スーパーカミオカンデのミニチュア版)、 シンチレーションファイバー飛跡検出器と水標的の積層構造、シンチレーション カウンター、鉛ガラス検出器、及びドリフトチェンバーと鉄の厚板を 交互に並べたミュー粒子飛程検出器から成る。

K2K実験の一群の前置検出器は1999年1月に完成し、ニュートリノ ビームラインの最初の運転が1999年1月27日から行なわれた。 1999年3月5日からは本格的なビームラインの調整が行なわれ、 現在(1999年6月)はデータを取得中である。K2K実験は、 これまで計画され、あるいは提案された全ての長基線ニュートリノ振動実験 に先駆けて、世界で初めて実施に至ったものである。

K2K実験グループは、日本、韓国、及びアメリカ合衆国の研究機関に よる国際的共同研究チームであり、約20研究機関から、およそ100名 が参加している。この実験のホスト研究機関として、KEKと東京大学 宇宙線研究所が共同で任に当たっている。

K2K実験の建設及び運転経費は、文部省の他、韓国科学財団 (KOSEF)、韓国科学技術省、及びアメリカ合衆国エネルギー省も 一部を負担している。

このステートメントあるいはK2K実験について、さらに情報を 必要とする場合は、下記のウエブサイトを参照するか、あるいは K2K実験の代表者に御連絡ください。

1999年6月28日

K2K共同実験グループ


その他の情報:

K2Kウエブサイト


K2K代表者

西川公一郎 教授(K2K実験代表者)
京都大学大学院理学研究科
電話:075-753-3859, 075-753-3820
nishikaw@scphys.kyouto-u.ac.jp

中村健蔵 教授(K2K-KEK代表者)
高エネルギー加速器研究機構
電話:0298-64-5435
kenzo.nakamura@kek.jp

戸塚洋二 教授(スーパーカミオカンデ実験代表者)
東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設
電話:0578-5-9600
totsuka@icrr.u-tokyo.ac.jp

鈴木洋一郎 教授(K2K-東京大学宇宙線研究所代表者)
東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設
電話:0578-5-9601
suzuki@icrr.u-tokyo.ac.jp

C. K. Jung 教授(K2K-米国共同代表者)
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 物理天文科
電話:516-632-8108, 516-474-4563
alpinist@superk.physics.sunysb.edu

J. Wilkes 教授(K2K-米国共同代表者)
ワシントン大学物理学科
電話:206-543-4232
wilkes@phys.washington.edu

C. O. Kim 教授(K2K-韓国共同代表者)
高麗大学物理学科
電話:2-3290-4338, 2-964-9175
cokim@kuzeus.korea.ac.kr