K2K -from KEK to Kamioka- Long Baseline Neutrino Oscillation Experiment
 
K2K実験でニュートリノ振動を確立
(概要)
 
2004年6月12日
高エネルギー加速器研究機構
東京大学宇宙線研究所

    K2K実験は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で人工的に発生させたミューニュートリノを250km離れた飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデで観測し、事象数の減少とエネルギー分布の歪み(*)を観測することによりニュートリノ振動を検出する国際共同実験で、加速器を用いた世界初の「長基線ニュートリノ振動実験」である。
    1999年6月の実験開始以来本年2月までに得られた全データを解析した結果、スーパーカミオカンデにおいて108事象が観測された。ニュートリノ振動が起きないとした場合に予想される事象数は150.9(+11.6-10.0)であり、明らかに観測された事象数は減少している。また250 km飛行後のニュートリノエネルギー分布を測定し、ニュートリノ振動に特徴的な歪みを観測した。観測に伴う統計的ゆらぎでこのような事象数の減少とエネルギー分布の歪みの観測結果になる確率は0.01%にすぎない。言い換えると99.99%(**)の確率でニュートリノ振動が起きていることになる。
    この結果、1998年にスーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で発見されたニュートリノ振動を、人工ニュートリノを用いた加速器実験で確立したと結論される。

K2K実験グループ
実験代表者:西川公一郎 (京都大学)

国内参加機関
     高エネルギー加速器研究機構(KEK)
     東京大学宇宙線研究所(ICRR)
     神戸大学
     京都大学
     新潟大学
     岡山大学
     東京理科大学
     東北大学
     広島大学
     大阪大学

日本以外の参加国
アメリカ Boston University / Duke University / Massachusetts Institute of Technology / SUNY at Stony Brook / University of California, Irvine / University of Hawaii / University of Washington
イタリア University of Rome "La Sapienza"
カナダTRIUMF / University of British Columbia
韓国 Chonnam National University / Dongshin University / Korea University / Seoul National University
フランスSaclay
スイスUniversity of Geneva
スペイン UAB/IFAE, Barcelona / University of Valencia
ポーランドWarsaw University
ロシアInst. for Nuclear Research, Moscow

  
(注) * 観測事象数がエネルギーとともに振動的に振る舞う現象で、ニュートリノ振動と呼ばれるゆえんである。 ニュートリノ振動を確立する上で、ニュートリノ観測数の減少以上に重要な極め手であるとされている。
** 前回(2002年4月)の発表では99%。


K2K実験でニュートリノ振動を確立
(実験目的)
    1998年6月、5万トンの水チェレンコフ検出装置、スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で、ニュートリノ振動が発見された。ニュートリノ振動は、3種類あるとされているニュートリノが質量を持つときに起こる現象で、生成されたニュートリノが飛行中に別種のニュートリノに変わるものである。
    ニュートリノの質量は、現在の素粒子の標準理論ではゼロと考えられている。ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノが微小ではあるが有限な質量を持つことを意味し、標準理論を超えた素粒子理論の構築の必要性を示している。
    また、ニュートリノの微小な質量は、背後に存在する巨大なエネルギースケールの世界、すなわち大統一理論の存在をも強く示唆している。K2K実験は、この大気ニュートリノ振動の観測結果を、加速器により発生させた人工ニュートリノを用いる実験で確認すると共に、振動パラメータ(質量の2乗の差と混合角)を良い精度で決定するものである。
 
 
(実験方法)
    高エネルギー加速器研究機構(KEK)の120億電子ボルト陽子加速器によりニュートリノビームを発生させる。このニュートリノはミューニュートリノである(注1)。KEK敷地内には前置検出器が置かれている。その役割は、発生直後、ニュートリノ振動を起こす前のミューニュートリノの数とエネルギー分布を測定することである。ニュートリノビームは250km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射される(図1)。
    この人工ニュートリノは大気ニュートリノと同程度のエネルギーを持っているため、飛行距離250kmの地球規模実験を行うことで、大気ニュートリノ振動を再現することが可能である。 K2K実験は、世界で最初の地球規模長基線ニュートリノ振動実験である。
    KEKからのビームは、約2秒に1回、約100万分の1秒のパルスとして約1兆個のニュートリノが神岡に向け発射される。この時間情報により、KEKからのビームに起因するニュートリノ事象であることが判別できる。大気ニュートリノなど自然ニュートリノの事象が入り込む確率は、1/1000程度以下である(図2)。  
 
(データの解析と結果)
    K2K実験では、ミューニュートリノビームの強度とエネルギー分布を前置検出器で測定し、遠方のスーパーカミオカンデにおける測定と比較してその変化を調べることで、ニュートリノ振動の研究を行う。ニュートリノ振動が起きれば、発生したミューニュートリノの強度は減少し、そのエネルギー分布は特徴的な歪みを示すはずである。特に、エネルギー分布の歪みはニュートリノ振動を確立する上で、ニュートリノ観測数の減少以上に重要な決め手であるとされている。今回の発表では、2002年6月の発表に用いたデータに、本年2月までに取得したデータを加え、従って現在までに取得した全データを解析した。さらに、前回以降、新しく設置した前置検出器によって系統誤差の理解が進み、解析の精度が上がった。また、生成されたニュートリノのエネルギー分布と、スーパーカミオカンデで観測されたエネルギー分布の比較を定量的に行った。
その結果、
1) ニュートリノ振動が起きないと仮定した場合、スーパーカミオカンデで予想される事象数は(150.9 +11.6,-10.0)【 前回2002年の発表では 80.1(+6.2 -5.4)】であるが、観測されたのは 108 事象【 前回は 56 事象 】であった。
2) 観測された108個のニュートリノ事象のうち、ミュー粒子1個だけが生成され、ニュートリノエネルギーを計算できる56個の事象から得られたエネルギー分布は、ニュートリノ振動が無い場合と比較して、特徴的な歪みを示した(図3)。
 
 
(結論)
以上の結果から次のような結論が得られた。
A) ニュートリノ振動が起きないにもかかわらず、統計的ふらつきで上記の結果1)、2)のような観測結果になる確率は0.01%である。このことはニュートリノ事象数の減少とエネルギー分布の二つの観測結果を総合して99.99%の確率でニュートリノ振動が起きていることを意味する。
B) ニュートリノ振動の重要な決め手となるエネルギー分布の特徴的な歪みが、期待どおり観測された。
C) ニュートリノ振動とした場合、実験で得られたニュートリノ振動のパラメータはスーパーカミオカンデの大気ニュートリノの観測結果と非常に良く一致している(図4)。
D) 従って、1998年にスーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で発見されたニュートリノ振動を、人工ニュートリノを用いた加速器実験で確立したと結論される。
 
 
(今 後)
    引き続きデータ収集を行い、特に昨年度に設置された新しい前置検出器のデータ解析を進めることにより、生成直後のニュートリノビームの測定精度を向上させ、従ってニュートリノ振動パラメータ(質量の2乗の差と混合角)の測定精度向上をめざす。
    1987年の超新星ニュートリノ観測によって始まった我が国のニュートリノ研究は、17年後の現在、素粒子物理学および宇宙物理学の根幹にふれるまでに発展してきた。しかし、未発見の電子型―ミュー型間の振動の観測、宇宙の物質・反物質非対称性の謎を解明するのに必要なCP対称性の破れの発見等々、さらに研究すべき課題が多く残されている。
    我々は、現在、日本原子力研究所とKEKが共同で建設を進めている大強度陽子加速器施設(J-PARC)によってこれらの謎に挑戦していく所存である。
 
 
注1 ニュートリノには、電子型、ミュー型、タウ型の3種類ある。大気ニュートリノ振動は ミューニュートリノがタウニュートリノに変化したものである。K2K実験では発生した タウニュートリノは検出できないため、ミューニュートリノを検出し、その減少を確認する。
 
  図1   図2
図1 高エネルギー加速器研究機構の陽子加速器により人工的に作られたミューニュートリノビームを、250km離れたスーパーカミオカンデで検出する。地球が丸いため、ニュートリノは地球内部を直進する。 図2 人工ニュートリノビームは約2秒に1回、およそ100万分の1秒のパルスとして発射される。この図は、スーパーカミオカンデで観測された、ビームに起因するニュートリノ事象の時間分布を示す。横軸の0の位置は、ビームの先端がスーパーカミオカンデに到着した時刻を示す。ビーム事象の周りには何も無い。これは、ビーム事象が大気ニュートリノなど、他の事象とはっきり区別でき、バックグラウンドが無いことを示している。
  図3   図4
図3 スーパーカミオカンデで検出された人工ニュートリノ起因による108個のニュートリノ事象のうち、ミュー粒子1個だけが生成され、ニュートリノエネルギーを計算できる56個の事象から得られたエネルギー分布。 青い線は、ニュートリノ振動が無い時に期待される分布(ただし分布の形の違いのみ を見るため期待値は全観測数に規格化してある)。赤い線は、ニュートリノ振動を仮定 して、データに最も良く合うようにニュートリノ振動のパラメータを決めたときのエネルギー分布。このパラメータは大気ニュートリノ振動のパラメータと良く一致している。赤線は低エネルギーで明らかに振動的に変化している。 図4 K2K実験で得られたニュートリノ振動のパラメータ(質量の2乗の差と混合角)領域横軸が混合の程度、縦軸が質量差を表す。緑色の曲線の内側が、K2K実験の結果から90%信頼度で許されるパラメータの存在領域を示す。黒色の曲線の内側はスーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で得られた結果を示す。  K2K実験の結果は、スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で得られた結果と良く一致していることが分かる。今後更に前置検出器によって生成直後のニュートリノビームの理解の精度を向上することによって、パラメータ決定精度を向上させる。
 
  www-admin(a)neutrino.kek.jp   Last modified: Mon Jun 7 08:34:20 JST 2004
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