長基線ニュートリノ振動実験の現状

平成12年9月15日
(Last Updated 平成13年3月1日)

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 K2K(KEK・神岡間)長基線ニュートリノ振動実験は、つくばのKEK(高エネ ルギー加速器研究機構)の陽子加速器を用いて発生させた人工ミューニュートリノを、 250km離れた岐阜県神岡に設置されている東京大学宇宙線研究所の5万トン水チェ レンコフ検出器、スーパーカミオカンデに向けて発射し、これを検出することによりニ ュートリノ振動を確認することを目的とする。ニュートリノ振動は、ニュートリノが0 でない有限の質量を持つことを意味し、スーパーカミオカンデ共同実験グループが 1998年6月に大気ニュートリノの観測においてミューニュートリノからタウニュー トリノへの振動の証拠を見いだし、報告した。もしKEKから神岡に至るまでにミュー ニュートリノがタウニュートリノに振動すれば、スーパーカミオカンデによって検出さ れるミューニュートリノの数は、振動が起きない場合に予測される数に比べ、かなり減 少する。

K2K実験は、平成11年6月19日にスーパーカミオカンデにおいて最初のニュートリノ 事象を検出し、6月、11月、及び平成12年1月、2月、3月、5月、6月と順調に実験を 行った。平成12年6月までに5万トンの水チェレンコフ検出器の中心部22,500トン内(*) で検出されたニュートリノ数は、28事象である。いずれの事象の起こった時刻も、 ニュートリノがつくばを出発し、光速で神岡に到着した予想時刻と100万分の1秒以内 の精度で一致した。この事実は、全ての事象が、つくば起源のニュートリノがスーパー カミオカンデ内で発した信号であることを示す。一方、KEK内に設置された前置検出 器において検出されたニュートリノ事象の数から推定される検出数は、ニュートリノ振 動が起きないと仮定した場合、37.8+3.5-3.8事象である。実際に検出された事象数が、 ニュートリノ振動が起きないとした推定値より少ないこの結果は、統計誤差及び系統誤 差を考慮すれば、ニュートリノ振動が起きている確率が約90%であることを意味するもの であり、本年7月28日に大阪で行われた第30回高エネルギー物理学国際会議 (ICHEP2000)において初めて報告された。 ニュートリノ振動を科学的に結論するためには、この確率が99%以上であることが必要であり、 今後数年間実験を継続することにより目標達成を目指す。

K2K共同実験グループ

(*)中心部22,500トンに限ることにより、系統誤差の最も少ない確実な測定が保証さ れる。スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測及び太陽ニュートリノ観測は、全 て中心部の22,500トンを用いている。

図1.スーパーカミオカンデで検出されたKEKからのニュートリノ事象の一例。
図2. スーパーカミオカンデでニュートリノの検出された時間とKEKでビームを発射する時間とは、 共にGPSを用いて測定される。この時間差から更にKEKからスーパーカミオカンデまでの ニュートリノの飛行時間を差し引くと、-0.2〜+1.3マイクロ秒の間に分布する。これは、 KEKからのビームのパルス幅が1.1マイクロ秒であり、これに時間分解能を考慮したものである。

その他の情報:

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K2K代表者

西川公一郎 教授(K2K実験代表者)
京都大学大学院理学研究科
電話:075-753-3859, 075-753-3820
nishikaw@scphys.kyouto-u.ac.jp

中村健蔵 教授(K2K-KEK代表者)
高エネルギー加速器研究機構
電話:0298-64-5435
kenzo.nakamura@kek.jp

戸塚洋二 教授(スーパーカミオカンデ実験代表者)
東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設
電話:0578-5-9600
totsuka@icrr.u-tokyo.ac.jp

鈴木洋一郎 教授(K2K-東京大学宇宙線研究所代表者)
東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設
電話:0578-5-9601
suzuki@icrr.u-tokyo.ac.jp

C. K. Jung 教授(K2K-米国共同代表者)
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 物理天文科
電話:516-632-8108, 516-474-4563
alpinist@superk.physics.sunysb.edu

J. Wilkes 教授(K2K-米国共同代表者)
ワシントン大学物理学科
電話:206-543-4232
wilkes@phys.washington.edu

C. O. Kim 教授(K2K-韓国共同代表者)
高麗大学物理学科
電話:2-3290-4338, 2-964-9175
cokim@kuzeus.korea.ac.kr